【産婦人科医コラム】不妊症の患者さまが、突然泣き出しちゃう理由とは?②2023.06.22
前回(※【産婦人科医コラム】不妊症の患者さまが、突然泣き出しちゃう理由とは?① をリンク先に)は不妊症の患者さまが突然泣き出してしまう理由のひとつ目についてお話させていただきましたが、今回はふたつ目の理由についてお伝えいたします。
妊娠にセックスは必要ない!!
さて、次に泣き出すパターンは、いろいろと検査の説明やプリントで、流れを説明したあと、患者さまが心ここにあらずな感じの後、急に下を向いてうなだれます。
「私じゃダメなのです。」
「私が悪いのです。」と泣き出してしまうパターンです。
私的には、「あっ、こっちか!」と思いますが、とりあえず「どんな感じなのですか?」と聞くと、患者さまは「夫は私ではだめなのです、、」と。「射精できないので子供は諦めるしかないのですか?」と泣き出してしまいます。
この場合、すぐにこのようなプリントを渡します。そこには「妊娠にセックスはいりません」と明記してあります。自己注入(シリンジ法)や保険で人工授精もできますと記載されているプリントです。渡しながら、そもそも「今日が排卵日だから、今日して!とか男も気分がのらないとつらいのよ」と言って渡します。
排卵日をクリニックで特定してもらい、その日に男性にマスターベーションで精子をカップにとってもらい、細いシリンジを用いてご自分で腟内に入れてもらえばよいのです。当院では無料でカップとシリンジを差し上げてます。女性が、痛くて性交渉が出来ないパターンも同じです。細い器具の自己注入(シリンジ法)で妊娠できます。
「子供を産めば腟が広がって、性交痛がなくなるケースもあるので、性交渉は産んでから考えれば?」とかお話すると笑顔で帰る方もいます。自分を責めても、パートナーを責めても解決はしません。かえって、夫婦関係がギクシャクしては子供なんていらないとなり、元も子もありません。
「私の言った言葉を、そのままご主人さんに言わないで、うまく機嫌のいいときに伝えて、手の上で転がしておいて」と言うと、更に表情が明るくなります。
当院では女性のために男性の専用窓口を作っております。不妊症も男性の加療が必要ですし、ED(勃起不全)の治療薬も保険適用となりました。性器クラミジア感染症などの性感染症で妊娠出来ない場合はパートナーも治療しなければなりません。男性側の治療も不可欠なのです。
おわりに:将来の妊娠のために
最後にお願いです。当院では若いうちからピルをすすめております。生理が始まった瞬間から排卵により卵巣や子宮に大きな負担がかかっています。生理痛がある方は、生理痛がない方に比べて、将来の不妊症の原因となる子宮内膜症の発症リスクが2.6倍(※1)になります。生理痛を我慢している方は要注意です。現在では医師の判断で小学生から飲める治療薬もあります。
ふたり目の子供を希望されている方も、ひとり目を産んでからの短い期間でもピル内服によって卵巣や子宮を休ませることをお願いしております。20代でも卵巣年齢の測定をすると、閉経時に近い方が多く見受けられます。海外のある調査によれば40歳までに100人に1人が閉経(早発閉経)しているというデータもあります(※2)。
卵巣年齢については、卵胞から分泌されるAMH(アンチミューラリアンホルモン)というホルモンを血液検査で測定することにより、卵子の数を推測することができます。気になる方はぜひ一度AMH検査(保険適用外の検査)を受けてみてください。(費用参考:当院では自費で6,600円の検査です。)
どうか皆様、卵巣年齢が低くて泣かないように、ピルを飲んで、卵巣を休ませてあげてください。詳しくは私の著書、幻冬舎より発売の『女性のためのピルの本』をご参照ください。
参考文献
※1:
treloar sa, et al:early men-strual characteristics associated with subsequent diagnosis of endometriosis. am j obstet gynecol 2010; 202(6): 534.e1-6
※2:
Coulam CB,Adamson SC,et al.Incidence of premature ovarian failure.obstetrics & Gynecology 1986;67:604-606